Mag-log inドアが背後で重い音を立てて閉まると、オフィスの喧噪が完全に遮断された。
シン、とした静寂。 遠くで車のクラクションが聞こえるだけの、無機質な空間。 一段、また一段と、階段を降りる。 パンプスのヒールがコンクリートを叩くカツッ、カツッという音だけが、やけに大きく響いた。 ブーッ、ブーッ。 スーツのポケットの中で、またスマートフォンが震えた。 骨に響くような、不快な震え。 取り出して、画面を見る。 見知らぬアカウントからの、直接のメッセージ。 『人として恥ずかしくないの? 死ねばいいのに』 言葉は、見えない刃だ。 切り取られ、加工され、匿名という安全な場所から投げつけられる石。 痛い。 苦しい。 でも、赤い血は流れない。青痣もできない。 だから、誰も助けてはくれない。 手すりの前に立つ。 緑色のペンキが剥がれ、赤茶けた錆が浮いた冷たい鉄の棒。 指先を引っ掛けると、金属のざらつきと、古い鉄の匂いが微かに鼻を突いた。 スマートフォンの電源を切ればいい。 そんなことはわかっている。 けれど、電源を切ったところで、画面の向こうで私が笑われ、消費され続けているという事実は消えない。明日になれば、またあのオフィスで、腫れ物として扱われる日々が続くのだ。 もう、説明する気力すら残っていなかった。 どうせ、誰も私の文脈など読んではくれないのだから。 手すりから、身を乗り出す。 夜の冷気が、熱を持った頬を撫でた。 頭の芯が白く濁り、ただ、あの通知の届かない場所へ、誰にも切り取られない場所へ行きたいという渇きだけがあった。 死にたいわけじゃない。 ただ、この音が、この視線が、この悪意が届かない、完全な静けさが欲しいだけだ。 ヒールのつま先を、コンクリートの縁にかける。 大きく、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んだ。 そして、最後の一歩を、虚空へ踏み出した。 重力に引かれ、身体が落ちる。 風の音が、大きく耳を満たした。 まぶたを閉じた。 これで、波風の立たない完全な静けさが、やっと手に入る。 ……はずだった。 ドンッ、という、コンクリートに激突する衝撃は、いつまで経っても来なかった。 代わりに全身を包み込んだのは、生温かく重い、強い圧迫感だった。 落下の浮遊感は消え、深い水底に沈み込んでいくような感触に変わる。 まぶたが、信じられないほど重い。 耳の奥で、ドクン、ドクンという、自分のものではない大きな心音が、頭の内側に響いている。 肺に酸素が入ってこない。 喉に何かが詰まったように、息がうまくできない。 腕を伸ばそうとしても、関節が思うように動かず、柔らかな壁のようなものに阻まれる。 「あ……」 声を出そうとした。 けれど、喉から漏れたのは、二十九歳の広報担当としての言葉ではなかった。 「おぎゃあ」 自分の口から出たその声に、思考が止まる。 視界が、ゆっくりと、ぼやけながら開いた。 そこにあったのは、夜の街のネオンでも、非常階段のコンクリートでもない。 くすんだ色をした、見知らぬ天井の、煤けた木目。 そして、自分の顔の前で頼りなく揺れる、小さく皺だらけの、赤い手。 赤ん坊の手。 死んだはずなのに、泣き声が出た。 言葉ではなく、赤ん坊の声だった。私は彼の手に握られた自分の手を、さらに強く握り返した。「ええ。私たちは、一緒に生きていくのよ。このうるさくて、痛い世界で」 私はコーヒーカップを持ち上げ、残っていた温かい液体を喉へ流し込んだ。 一時間後。 私たちは、基金の設立準備のための会合へ向かうべく、マンションの玄関に立っていた。 私は春物の薄手のトレンチコートを羽織り、ハンドバッグの留め金を確認する。バッグの奥底には、あの革張りのメモ帳が、今も私の記録の相棒としてひっそり収まっている。 透が、重い鉄製のドアのノブを押し下げた。 カチャリとドアが開き、外の世界への道が開かれる。 吹き込んできたのは、冬の凍てつくような寒気ではなく、湿り気を帯びた、柔らかい春の風だった。 微かに、どこかで咲いている沈丁花の甘い香りと、温められた土の匂いが混じっている。 玄関脇の小さな棚には、昨日買ってきたばかりの素焼きの鉢が置かれていた。 白灰蘭ではない。花屋の店先で、名前も知らずに選んだ、小さな黄色い花だった。茎は少し曲がり、葉の端には虫に食われたような穴が一つ空いている。天野本邸の温室なら、きっとすぐに捨てられていただろう。 でも、その不揃いな姿が、私は気に入っていた。 透が水をやりすぎないようにと、昨日から何度も鉢の土を指で確かめているのを知っている。完璧に管理するためではなく、枯らさないために見ている。その違いが、今の彼にはちゃんとわかっている。「今朝は、もう水をあげた?」「あげていない。昨日、君に『構いすぎると根腐れします』と言われたから」「よく覚えていました」「忘れたら、鉢より先に僕が叱られる」 真顔でそう言うから、私は思わず笑ってしまった。天野家の次期当主としてあれほど恐れられていた人が、今は小さな鉢植えの水やりで私の顔色を見ている。 私は鉢の横に置いた小さなメモカードに、日付と一言だけを書いた。『今日も、咲いている』 報告書でも、告発文でもない。 あの温室の、白灰蘭のむせ返るような匂いとは違う。生きた植物たちが、それぞれのペースで太陽に向かって呼吸
「透さん」 「ん? また赤ペンか」 「今日は青ペンです」 「色の問題ではない気がする」 「では、心構えの問題ですね」 透はコーヒーカップを持ったまま、妙にきちんと背筋を伸ばした。 「君のペンに緊張する日が来るとは思わなかった」 「光栄です」 「褒めてはいない」 「でも、悪くもないでしょう」 返事に困ったように黙る彼が少し可愛くて、私は紙面に視線を戻しながら笑いを噛み殺した。 「ここの『家庭環境に恵まれない』という表現、少し変えましょう」 私は該当箇所をペン先で二度叩いた。 「これだと、まるで家庭の『運』だけが問題みたいに読めてしまうわ。私たちが支援したいのは、家で傷ついても助けを求められず、制度にもつながれていない子どもたちよ」 「なるほど。『恵まれない』だと、最初から線を引いてしまうな」 透がコーヒーカップを片手に、私の背後から覗き込んだ。 彼のシトラスの香りが、ほのかに鼻をくすぐる。 「なら、『社会的養護の枠組みから孤立した児童に対し』とするのはどうだろうか」 「ええ。対象と、制度からこぼれた理由を、同じ段落に置きましょう。あとで一文だけ抜かれても、元へ戻れるように」 私は透が提案した文言を、空いた余白にカリッ、カリッと書き込んでいく。 私は言葉を整えるこの技術を、誰かを切り捨てるためではなく、声を持てない子どもたちが、いなかったことにされないように使っている。 ペン先が紙を走る音を聞きながら、私は胸に深く、確かな熱が広がるのを感じていた。 透は私の横顔をじっと見つめていた。 「温室でも、その顔で僕の襟を掴んだ」 透は、私のペン先を見たまま続けた。 「今度は紙で済んでいる。あの時は君の指が僕の襟に食い込んでいた。……紙で済ませてほしいなら、僕も勝手に君の結論まで書かないことだな。君が怒る前に聞く。そういうことだろう」 私はボールペンを置き、彼を見上げた。 「よく分かっていますね。紙で済ませてほしいなら、勝手に一人で結論を出さないこと。次は青ペンではなく、何度でも襟を掴み
透が、フライパンからスクランブルエッグを皿に移しながら答える。 皿の上に落ちた卵は、形だけならかなり自由だった。 「……これは、スクランブルエッグで合っていますか」 「合っている。たぶん」 「たぶん」 「料理本の写真とは、少し方向性が違うだけだ」 その言い訳があまりにも真面目だったので、私はフォークを持ったまま笑ってしまった。 私たちが今、全部を失った後に手元に残されたわずかな個人資産と、黒瀬たち元使用人らの協力を得て立ち上げようとしているもの。 それが、この児童支援基金だった。 テーブルの端には、何通もの封筒が重ねられている。 一つは、黒瀬から届いたものだ。彼は今、捜査に全面協力しながら、司法取引に近い形で証言を続けている。手紙には、硬く整いすぎた字でこうあった。 『私は罰を免れたいとは思いません。今後は記録を削る側ではなく、残す側として働きたいと願っています』 もう一つは、千尋からのものだった。 彼女は天野家を離れ、遠方の小さなホテルで住み込みの仕事を始めたらしい。便箋の端には、慣れない手つきで描かれた小さな白い花があった。 『私はまだ怖いです。でも、怖いままでも、言葉にしていいのだと、お嬢様に教えていただきました』 それから、佐伯から届いたメモには、相変わらず乱暴な字で、こう書かれていた。 『基金の記者発表をやるなら、余計な美談にはするな。あんたが嫌うだろうからな。必要なら、言葉の前と後ろを勝手に削られないよう見張ってやる』 私はその文字を見て、口元だけで笑った。 佳乃からは、返事のいらない葉書が届いていた。 遠方の小さな町の消印。宛名の字は少し震えていたけれど、本文は丁寧だった。 『帳簿を渡したことを、私は後悔していません。あなたが私を母と呼べる日が来なくても構いません。ただ、あなたが自分の足で歩いていることを、遠くから祈っています』 私はその葉書を、基金の書類と一緒に保管している。 許しも、和解も、急がなくていい。 泣き声を「うるさい」と切り捨てられ、抱き上げられることもなく、助けを呼ぶ言葉さ
水科家もまた、資金洗浄の共犯として父が逮捕され、家名も資産も何もかも消滅した。佳乃が私に帳簿を託してくれたおかげで、隠蔽の全貌を暴くことはできたが、彼女自身も厳しい取り調べを受けた後、今は遠方の親戚の元でひっそりと暮らしている。 私たちの手元に、天野本邸も水科の家も残らなかった。 私はコーヒーを一口飲み、ダイニングテーブルの方へ歩み寄った。 そこには、朝食のトーストの皿と、何十枚もの書類の束が、同じテーブルの上で微妙な緊張関係を保っていた。 透は几帳面に書類の角を揃えようとしているのに、自分の袖口にジャムがついていることには気づいていない。 「透さん、袖」 「袖?」 「赤ペンではなく、苺ジャムです」 彼は一瞬、世界の重要な前提が崩れたような顔をした。 「……気をつけていた」 「気をつけていても、つく時はつきます。人間なので」 そう言って濡らした布巾を渡すと、透はばつが悪そうに受け取った。こういう時の彼は、冷酷御曹司というより、失敗を報告する小学生に近い。 私が引き寄せた一番上の書類のタイトルには、『一般財団法人・児童支援基金 設立趣意書案』と印字されている。 その書類の右下には、まだ空白の署名欄があった。 設立発起人代表。 肩書きとしては、いくらでも別の呼ばれ方があった。旧天野家関係者。水科家元令嬢。事件の被害者。告発者。どれも間違いではないし、世間はきっとそのどれかで私を呼ぶだろう。 けれど、私はボールペンの先を紙に置き、ゆっくり自分の名前を書いた。 水科凛花。 隣で、透も自分の名前を書き込む。 天野透。 その筆跡は、婚約契約書で見た時のように冷たく整いすぎてはいなかった。線はかすかに揺れ、けれど最後の払いには、逃げない人間の確かな力があった。 二つの名前が並んだ紙面を見下ろしながら、私はふと、あの婚約契約書を思い出した。 あの日、私の名前は、死んでも誰も困らないようにするための準備として置かれた。 今、同じ名前は、声を持てない誰かの生を少しでも拾い上げるための、最初の線としてここにある。
朝の、ひどく冷たくて、けれど新しい季節の気配を含んだ風の匂い。 私は溶けていく光を見送りながら、深く、静かに息を吸い込んだ。 ウィーン……。 遠くで、コーヒー豆を挽く電動ミルの低いモーター音が聞こえた。 ゆっくりまぶたを持ち上げる。 視界の端から、柔らかい春の朝の光が、アイボリー色のコットンのカーテンを透かして部屋の中に滑り込んできている。 天野本邸の、あの分厚く重い遮光カーテンはもうない。 肌に触れるシーツも、冷たくなった高級なシルクではなく、柔軟剤の匂いがする、洗い立ての麻の感触だった。 私はベッドの中で小さく身をよじり、深く息を吐き出した。 肺の奥に、焙煎されたコーヒーの香ばしい匂いと、フライパンでバターがかすかに焦げる匂いが流れ込んでくる。 生きていた。 私はシーツを押し除け、ベッドサイドに置かれたカーディガンを羽織って立ち上がった。 フローリングの床を素足で踏む。 あのペルシャ絨毯のように、自分の足音を吸い込んでしまう無気味な浮遊感はない。ペタ、ペタと、自分の体重が床板に伝わる微かな音が、私の耳に確かに届く。 寝室のドアを開け、リビングダイニングへと続く短い廊下を歩く。 ここは、都心から少し離れた、緑の多い住宅街にあるマンションの一室だ。 広さは、天野本邸の私室一つ分にも満たない。 キッチンから、コーヒーミルの音とフライパンを置く音が聞こえた。 キッチンのカウンターの向こう側。 天野透が、洗いざらしの白いシャツにグレーのスウェットパンツというラフな姿で、コーヒーのドリップポットを傾けていた。 彼が細いお湯の線をフィルターに落とすたびに、コーヒー粉がふっくらと膨らみ、白い湯気とともに濃厚な香りが立ち昇る。 彼の手元に視線を落とす。 捲り上げられたシャツの袖から伸びる、右腕。 肘から手首にかけての、赤黒く爛れ、ケロイド状に引きつれたあの古い火傷の痕。 彼はもう、その傷を隠そうとはしていなかった。 包帯を巻くこともなく、春の朝の光の下に堂々と晒したまま、左手で
匂いがない。 温度もない。 視界の果てまで、ただ果てしない白だけが無限に広がる空間。 私は自分の足の裏が何を捉えているのかもわからないまま、その完全な静寂の中に立っていた。 あの時と同じだ。 非常階段の冷たい手すりを乗り越え、風の轟音の後に全身を包み込んだ、あの生温かくひどく粘度の高い泥のような暗闇を抜けた先。 自分が誰なのか、なぜここにいるのかすら曖昧になる、意識の漂白。 だが、今の私はあの時とは違う。 私のみぞおちのあたりには、ドクン、ドクンと規則正しく血液を送り出す心臓の鼓動が、確かな重さを持って存在していた。 視界の少し先に、小さな影が浮かび上がった。 ゆらゆらと、ひどく頼りなく揺れる、皺だらけの赤い手。 声を持たず、自分の痛みを訴える言葉の代わりに、ただ不快なノイズとしての泣き声を上げるしかできなかった、あの短い二度目の生の肉体。 酸えたアルコールの匂いと、安い煙草の煙に塗れた部屋で。 誰の耳にも届かない悲鳴を上げながら、車のダッシュボードに頭を打ちつけて呆気なく消えた、あの名もなき赤ん坊。 私はゆっくり足を踏み出し、その頼りなく揺れる小さな赤い手に向かって、自分の右手を伸ばした。 指先が空中でそっと触れ合う。 温度はなかった。それでも、小さな指は消えずにそこにあった。 「……大丈夫よ」 私は白濁した空間に、自分自身の声帯を震わせた音を響かせた。 誰かに切り取られることも、ノイズとして消費されることもない、私だけの真っ直ぐな言葉。 「私は今、私の声で息をしているわ」 小さな赤い手が微かにピクリと動いた気がした。 非常階段の風と、赤ん坊の泣き声が、一度に胸へ戻ってきた。 その結果、言葉を持てない命の理不尽さを、骨の髄まで味わうことになった。 生まれた場所が違うだけで、声を持たないだけで、いとも簡単にゴミのように踏み潰されていく命があること。 その痛みを知っているからこそ、私は現世で、天野美津子が用意した「言葉を奪い、精神を殺す箱庭」の中で、決して自分の輪郭を手
視界が、白く濁っていた。 ピントが合わず、輪郭のぼやけた光の染みのようなものが、ゆらゆらと揺れている。 自分の手足を動かそうとした。 だが、手足は水を含んだ綿のように重く、思うようには動かない。空中でばたばたと不規則に揺れるだけだった。「あー、あー」 言葉の代わりに口からこぼれたのは、意味にならない息と、細く情けない鳴き声だった。 顔の前で、小さな手が頼りなく揺れている。 皺だらけで、赤くて、何かを掴む力すらほとんどない手。 その小ささを見た瞬間、胸の奥に安堵が滲んだ。 生きている。 どんな奇跡かはわからないが、もう一度、やり直せるのだ。 あんなふうに、悪意のある切り
「会社としては、橘さん個人の意図を問題にしているわけではありません」 人事担当の女は、柔らかな声で、けれど一切こちらに踏み込まない距離を保ったまま言った。「ただ、現時点では関係各所に大きな混乱が生じています。しばらくは出社を控えていただく可能性も含め、会社として適切な対応を検討します」 適切な対応。 その言葉の中に、橘日和の弁明が入る余地は、どこにもなかった。 午後。 オフィスには、目に見えない透明な壁が立っていた。 斜め向かいの紗耶の席は、空席だった。『ショックで過呼吸気味になって、早退したらしいよ』『そりゃそうだよね。信じてた同期に、あんな風に責任押し付けられそうになっ
カチリ、と。 万年筆のキャップが閉まる硬い金属音が、耳の奥で反響を繰り返していた。 水科凛花(みずしな・りんか)としての呼吸を整えようと、ゆっくりと肺に空気を送り込む。 だが、冷たく管理された天野家の執務室の空気は、吸い込めば吸い込むほど、別の記憶の匂いを喉の奥へ引きずり出してきた。 古いコピー機が吐き出す排熱。 トナーの焦げた匂い。 そして、誰にも言葉が届かなくなった、あの会議室の後の、乾ききったオフィスの空気。 万年筆をデスクに置いても、指先の震えは止まらなかった。 頭に残った橘日和(たちばな・ひより)としての記憶が、終わりのない悪夢のように、再び生々しい輪郭を結び始め
正しい時系列を、前後関係を残そうとしただけなのに。 視線を泳がせ、斜め向かいに座る紗耶を見た。 彼女なら、わかってくれる。 あのチャットのやり取りの全貌を、彼女は知っているはずだ。「紗耶……」 すがるような思いで、微かに声を絞り出す。 だが。 ゆっくりと顔を上げた紗耶の瞳には、同情も、申し訳なさもなかった。 あるのは、怯えた小動物のような震え。「私……知りません」 震える声が、会議室の静寂に落ちた。「日和さんが……橘さんが、勝手にやったことです。私は、ただ、確認をお願いしただけで……こんな隠蔽工作みたいなこと、知りませんでした」 頭の中が白くなる。 紗耶の目から、